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【事例研究】AVと注意喚起

【設例】

 近年、アダルトビデオ(以下AVとする)において描写される性行為が過激化傾向にあるとともに、必ずしも女性の望む態様で性行為がなされているわけではなく、現実においても男性本位の性行為がなされる危険があるとの指摘がなされるに至った。

 そこで、作品の冒頭部分に「この映像は男性がマスターベーションを行う手助けのために作られた映像です。ここで行われた性行為を生身の女性に行うとその女性との関係が損なわれる恐れがあります」との注意喚起することを義務付ける立法が検討されている。

 なお、AVとは、男女の性行為を映像作品として提供するサービス一般を指すものとする。

上記における憲法上の問題点につき論ぜよ。 

【検討】

第1 本件法により作品の冒頭に注意喚起のメッセージ表示を義務づけることは、表現の自由(21条1項)を侵害するものであって違憲無効である(98条1項)。

 まず、自らの見解と異なる望まないメッセージを強制されない自由は消極的「表現の自由」としての保障を受け、また、当該強制がなされると思想の自由市場を大きく歪めることにつながりかねず、それゆえかかる自由は特に厚く保護されなければならない重要な権利である。

 これに対して、AVという性行為を描写するもののみをターゲットにして、特定の内容のメッセージの表示を義務付けるという、内容に着目した、国家による恣意的介入の契機となりかねない強度な規制がなされている。

 このように重要な権利に対する強度の制約が許容される(13条参照)か否かは厳格に判断されなければならない。具体的には、当該制約の目的がやむにやまれぬ政府利益のためであって、これを達成する手段として必要最小限のものが用いられている場合に限り許容されると解する。

 本件法の目的は、男性本位の性行為がなされることを防止することにあるところ、確かに近年、AVにおいて描写される性行為が過激化傾向にあるとともに、必ずしも女性の望む態様で性行為がなされているわけではなく、現実においても男性本位の性行為がなされる危険があるとの指摘がなされるに至っており、これを防止することについて政府利益を見出すことができるとも思える。しかし、「男性本位の性行為」の具体的内容が明らかでなく、またかかる男性本位の性行為が具体的にどのような問題を惹起することにつながるのかも明らかでない。そうとすればそのような不確実な立法事実に基づいて策定された目的にはやむにやまれぬ政府利益どころか正当性の存在すら疑われるものであって到底これを認めることはできない。したがって、目的がやむにやまれぬ政府利益のためであるとはいえない。また手段としても、過激なものとそうでないとを問わずAVであるというだけで一律にメッセージの義務付けをなすのであるから、内容が過激であることのシグナリングを果たすことができなくなり、注意喚起の手段としてはむしろ逆効果である。とすれば手段として必要最小限どころか、合理的関連性すら有しない。したがって、手段として必要最小限のものが用いられているとはいえない。

第2 よって、本件法により作品の冒頭に注意喚起のメッセージ表示を義務づけることは、表現の自由を侵害するものであって違憲無効である。